Appleは、英国本社のあるバタシー発電所の下層部に、定員600人の音楽会場を開く準備を進めている。Apple Musicにとって、コンサートを開催し、その映像をオンラインで配信できる専用拠点となる。数週間以内の開業を見込むが、最初の出演者はまだ明らかにしていない。

「Apple Music Hall」は著名アーティストの単発公演にも、新進バンドの演奏にも対応する。公演は有料チケット制で、撮影した映像をApple Musicで配信する計画だ。コンサートホールとコンテンツ制作施設を兼ね、楽曲カタログやプレイリストだけでは似通いがちな配信サービスの差別化を狙う。

設備は舞台にとどまらない。キングス・クロスから移るApple Musicのラジオスタジオに加え、DJミックス、作曲、バンド練習のための空間を設ける。館内の音声・映像システムは接続され、アーティストは一度の訪問でポッドキャストを録音し、ラジオに出演し、配信ライブも行える。

建物の内部では、アールデコの特徴である溝のあるヴォールト天井や、れんが壁を残した。れんがは吸音性を考えて選ばれ、幅38フィートの舞台は通常の正面向き公演にも、客席が周囲を囲む形式にも組み替えられる。Apple Music幹部のオリバー・シュッサー氏は、この規模としてはカメラとスピーカーを高密度に備えると説明した。

Appleは独立系ライブ会場と競争するための計画ではないとしている。シュッサー氏によれば、目的は音楽家と聴き手を結び、放送・配信用の公演を制作することで、広く会場運営事業へ進出することではない。BBCによるとロンドンでは前年に45の音楽会場が閉鎖した。英国全体でも2020~2025年に約400のクラブが閉まり、費用増とコロナ禍後の行動変化が運営を圧迫している。

このホールは、Appleの過去のライブ音楽への取り組みを別の形で復活させるものでもある。同社はロンドンの既存会場に著名アーティストを集めたiTunes Festivalを9年前に終了した。今回は会場そのものと制作設備を自社で持つ。

定額音楽配信では、録音済みの楽曲にアクセスできるだけでは、アルバムの背景や演奏の魅力、ファンとの関係を十分に伝えにくい。Appleはライブとスタジオ番組でその空白を補い、若手にも専門設備の整った舞台を提供しようとしている。ロンドンの厳しい会場事情にどの程度の影響を与えるかは、今後発表される番組、料金、利用頻度に左右される。