Googleは2026年8月14日、「Private Computing Toolkit」の一環としてHEIRと呼ばれるオープンソースのコンパイラを紹介し、計算を実行するサーバーに元の入力データをさらすことなく人工知能による推論を行う手段として提示した。HEIRは「Homomorphic Encryption Intermediate Representation(準同型暗号中間表現)」の略である。

準同型暗号では、暗号文に対して直接演算を適用できる。サービスは暗号化された入力を受け取り、元の情報を先に閲覧することなく暗号化された結果を計算し、返すことができる。Googleは一例として、非公開コンテンツのレコメンデーションを挙げた。クラウド上のモデルは、保護されたユーザーの特徴量を、読み取り可能な形で把握することなく処理できる。

この手法は、通常のエンドツーエンド暗号化が抱える制約に対処する。暗号化は保存中または送信中の情報を保護できるが、従来型のサーバーは通常、分類などのタスクを実行するために平文を必要とする。モデルをローカルで実行すればデータの共有を回避できるものの、端末の処理能力を超える可能性があり、独自モデルを配布すれば提供者の知的財産が露出する恐れがある。準同型暗号は、こうした能力とプライバシーのトレードオフの一部を、計算コストに置き換える。

HEIRは、暗号化された計算を実用化するために必要な専門作業を減らすことを目的としている。Googleによると、このコンパイラは通常のデータ向けに設計された学習済みモデルを、暗号化された入力を受け付けるバージョンへ変換できる。長期的な目標は、暗号技術の専門知識を持たない開発者でも、ワンクリックのワークフローを通じて本番アプリケーションに暗号化推論を追加できるようにすることだ。今回の発表は、それをあらゆるモデルについて実現済みの保証ではなく、構想として提示している。

Googleは2023年にHEIRの計画を初めて明らかにした。同社によると、それ以降、このプロジェクトは研究基盤として利用され、査読付き論文4本を支援しており、さらに追加の研究も準備中だという。発表で名前が挙げられた共同研究機関には、ジョージア工科大学、カーネギーメロン大学、カリフォルニア大学サンタバーバラ校、イリノイ工科大学、パデュー大学、エディンバラ大学、清華大学が含まれる。

このプロジェクトは、準同型暗号ハードウェア企業のBelfort、Niobium、Cornami、Optalysysとも協力している。Googleは、アクセラレーターの実演も取り組みの一部だったとし、将来、レイテンシーの改善を示す計画だと述べた。この「将来」という表現は重要である。提示された証拠には、アクセラレーターの比較結果も、本番運用の経済性を立証する情報も含まれていない。

4つのプライベート推論アプリケーションがHEIRでコンパイルされ、ソースコードとともに公開され、シングルスレッドCPUでのレイテンシーが報告された。抜粋には個々の測定値が含まれていないため、そこから性能比較を導くことはできない。Googleは、コストが低下しつつあるとはいえ、準同型暗号には依然として無視できないオーバーヘッドが伴うことを認めている。

したがってHEIRは、あらゆる性能上の制約を解決することよりも、開発者にとっての利用しやすさに、より直接的に取り組むものだ。そのオープンなツールチェーンは、研究者が再利用できる共通のコンパイル、テスト、ベンチマーク基盤を提供する。暗号化推論が日常的なものになるかどうかは、モデルの互換性、レイテンシー、ハードウェア対応、運用コストに左右されるが、このプロジェクトは、サーバー側での計算中も入力を一貫して暗号化したままにするAIサービスを評価するための具体的な道筋を提供している。